名もなき古代人類の謎
科学 8 days ago
2010年、シベリアのデニソワ洞窟で発見された指の骨の破片をきっかけに認知されたデニソワ人は、人類進化史において最も謎に満ちた存在の一つだ。DNA分析により、現生人類ともネアンデルタール人とも異なる独自の系統でありながら、私たちの祖先と交雑していたことが判明している。しかし遺伝子的な特異性とは裏腹に、完全な骨格の欠如が正式な種名の決定を阻み、古代人類の分類が抱える課題を浮き彫りにしている。
「ドラゴンマン」の愛称で知られる哈爾浜(ハルビン)頭蓋骨がデニソワ人と特定されたことで、初めてその顔貌が明らかになった。チベットや台湾で発見された断片的な化石と相まって、興味深い手がかりが得られている。だが科学界では「どの化石が真のデニソワ人に属するか」で意見が分かれており、正式な種の記載を複雑にしている。
科学的課題に加え、デニソワ人の命名には分類学の複雑な規則との調整も必要だ。アジア各地に散らばる数十件の未分類ヒト族化石について、研究者たちは分子証拠と形態学的分析のバランスを取らねばならない。より完全な化石が発見されるまで、デニソワ人は「名無し」のまま、人類史において極めて重要な存在であり続けるだろう。